重要情報
2010年7月11日
公開シンポジウム:「改定臓器移植法」施行を問う を開催いたします。

2009年7月13日
生命倫理会議 参議院A案可決・成立に対する緊急声明 を発表いたしました。

2009年6月18日
生命倫理会議 衆議院A案可決に対する緊急声明 を発表いたしました。

2009年6月11日
生命倫理会議 臓器移植法改定に関する徹底審議の要望 を掲載いたしました。

2009年5月12日
生命倫理会議 臓器移植法改定に関する緊急声明 を発表いたしました。

2009年6月11日木曜日

臓器移植法改定に関する徹底審議の要望

「臓器移植法」改定をめぐる衆議院厚生労働委員会の審議は、特にA案提案者の法案解釈のズレが露わになったにもかかわらず、計8時間で打ちきられ、早ければ16日にも採決される流れにあります。
こうした逼迫した状況に鑑み、私たち生命倫理会議は、あらためて「臓器移植法改定に関する徹底審議の要望」を作成し、本日11日から全衆議院議員にファックスを送りはじめました。その「要望」をここに掲載いたします。




生命倫理会議
臓器移植法改定に関する徹底審議の要望

2009年6月11日

生命倫理会議 代表 東京海洋大学教授 小松美彦



 生命倫理会議は、生命倫理の教育・研究に携わっている大学教員の集まりです。去る5月12日には71名(68名+追加3名)の連名を以て「臓器移植法改定に関する緊急声明」を公表し、厚生労働省記者クラブにおいて記者会見を行いました(詳細は http://seimeirinrikaigi.blogspot.com/ をご覧ください)。
 その際、生命倫理に係わる専門家の立場から、法改定に関して審議が尽くされるべき諸問題を指摘しましたが、現行法制定時にも及ばない短時間の議論が行われただけで、主に国会議員諸氏の死生観に委ねるという形で本会議での採決がされようとしています。しかるに、これらの問題は国民一人ひとりの生死に関わるのみならず、日本の文化・社会の未来をも大きく左右するものでもあり、このままでは日本の将来に多大な禍根を残すことが深く憂慮されます。そこで今回、あらためて以下の見解を表明し、徹底審議がなされることを再度要望いたします。


1) WHOの新指針に何が書かれているかが確認され、事実に基づく議論がなされるべきである。
巷間で喧伝されているのとは異なり、WHOの新指針には「海外渡航移植の制限」や「移植臓器の自給自足」の方針は謳われていない。それどころかA案およびD案は、WHOが求めている「未成年の保護」や「法的に無能力な人の保護」に反する恐れがある。またD案のように「第三者機関」を設けたとしても、実効性は乏しいと予想される。そのうえA案およびD案は、臓器提供の際の「本人同意」さえ不要としている。これは現行法の基本理念の改廃であり、もはや「見直し」ではなく「新法制定」と言わざるをえない。


2) 移植に代わる医療の存在が患者・国民に周知され、また国によって援助されるべきである。
現在、移植適応とされる拡張型心筋症の乳幼児にペースメーカー治療が始められているという。移植をしなくても助かる道が開かれつつある以上、第一により多くの患者・国民がその恩恵に与れるような施策が講じられるべきであり、また「臓器不足の解消」という目標自体が再考される必要がある。


3) ドナーを増やすことが国民全体への責務に反することにはならないか、熟慮されたい。
「臓器不足」とは「脳死者不足」にほかならない。しかも交通事故が減り、救急医療体制が再建・整備されれば、「脳死者」もまた減ることが予想される。国民が安全に、安心して暮らせる社会を実現することは、政府および国会が果たすべき本来の務めであるはずだが、それは「脳死者=ドナー」を増やすこととは両立し難い。


4) 「脳死=人の死」であるとは科学的に立証できていない、という事実を直視されたい。
近年ではアメリカにおいてすら、「脳死=人の死」ではないと認めざるをえなくなってきている。この点で、体温を保ち、脈を打ち、滑らかな動き(ラザロ徴候)を見せ、成長し続ける脳死者を「死人」とすることに、少なからぬ人々が違和感を覚えるのは、単なる感情の問題ではなく、非科学的なことでもない。


5) 「ドナー=脳死者」の人権が守られない可能性がある以上、多数決は控えるべきである。
現行の「臓器移植法」では、「法律の施行状況を勘案し、その全般について検討が加えられ」ることが法改定の大前提である(附則第二条、下線部引用者)。しかし、これまでの81人の脳死判定と臓器摘出には、法律・ガイドラインに対する違反のあった疑いが残る。この点を精査・検討しないまま法改定を行うなら、今後も「脳死者=ドナー」の人権が守られる見込みはなく、またA案およびD案の場合には、幼い子供の人権までもが著しく侵害されることになる可能性が高い。


 そもそも人の生死の問題は、多数決に委ねたり、法律問題にすり替えたりするべきものではありません。しかし今般の法改定をめぐっては、なおそのうえに、WHOの新指針に関する誤った情報に基づいて、また臓器移植の延命効果等に関する科学的なデータもないままに、そして長期脳死者とその家族の真の姿を知ることもないままに、いかにしてドナーを増やすかということばかりが焦点にされています。このまま法改定が行われるならば、上に述べたように、倫理的にはもとより法的・政治的にも、社会的にも、やがて深刻な諸問題が生じるであろうと危惧されます。
 国会議員諸氏には、国民全体への責務と日本の文化・社会の未来とを見すえ、立法者としての熟慮と、そして徹底的な審議とをなされるよう、重ねて要望する次第です。


「生命倫理会議緊急声明」連名者(68名+追加3名)
旭 洋一郎(長野大学教授・障害者福祉論)
天田城介(立命館大学大学院准教授・社会学)
綾部広則(早稲田大学准教授・科学技術論)
安藤泰至(鳥取大学准教授・宗教学)
伊古田 理(千葉工業大学准教授・哲学)
石田秀実(元九州国際大学教授・哲学)
石塚正英(東京電機大学教授・史的情報社会論)
市野川容孝(東京大学大学院教授・社会学)
宇城輝人(福井県立大学准教授・社会学)
大澤真幸(京都大学大学院教授・社会学)
大庭 健(専修大学教授・倫理学)
大林雅之(東洋英和女学院大学教授・バイオエシックス)
冲永隆子(帝京大学専任講師・生命倫理学)
荻野美穂(同志社大学大学院教授・歴史学)
重田園江(明治大学准教授・現代思想)
香川知晶(山梨大学大学院教授・哲学)
柿原 泰(東京海洋大学准教授・科学技術史)
加藤茂生(早稲田大学専任講師・科学史科学論)
加藤秀一(明治学院大学教授・社会学)
金森 修(東京大学大学院教授・フランス哲学)
川本隆史(東京大学大学院教授・倫理学)
鬼頭秀一(東京大学大学院教授・科学技術社会論)
木名瀬高嗣(東京理科大学専任講師・文化人類学)
木原英逸(国士舘大学教授・科学技術論)
木村 敏(京都大学名誉教授・精神医学)
空閑厚樹(立教大学准教授・生命倫理学)
蔵田伸雄(北海道大学大学院教授・応用倫理学)
倉持 武(松本歯科大学教授・哲学)
栗原 彬(立命館大学特別招聘教授・政治社会学)
小泉義之(立命館大学教授・哲学)
小松奈美子(武蔵野大学教授・生命倫理学)
小松真理子(帝京大学准教授・科学史科学論)
小松美彦(東京海洋大学教授・科学史科学論)
小柳正弘(琉球大学教授・社会哲学)
最首 悟(和光大学名誉教授・〈いのち〉学)
齋藤純一(早稲田大学学術院教授・政治理論)
斎藤 光(京都精華大学教授・性科学史)
佐藤憲一(千葉工業大学准教授・基礎法学)
篠田真理子(恵泉女学園大学准教授・環境思想史)
篠原睦治(和光大学名誉教授・臨床心理学)
清水哲郎(東京大学大学院特任教授・死生学)
愼 蒼健(東京理科大学准教授・科学史科学論)
鈴木晃仁(慶應義塾大学教授・医学史)
高草木光一(慶應義塾大学経済学部教授・社会思想史)
高田文英(龍谷大学専任講師・真宗学)
竹内章郎(岐阜大学教授・社会哲学)
竹内整一(東京大学大学院教授・倫理学)
武田 徹(恵泉女学園大学教授・メディア論)
高橋文彦(明治学院大学教授・法哲学)
田中智彦(東京医科歯科大学准教授・政治思想)
田村公江(龍谷大学教授・倫理学)
塚原東吾(神戸大学大学院教授・テクノ文明論)
柘植あづみ(明治学院大学教授・医療人類学)
土屋貴志(大阪市立大学大学院准教授・倫理学)
爪田一壽(武蔵野大学専任講師・仏教学)
土井健司(関西学院大学教授・キリスト教神学)
堂前雅史(和光大学教授・科学技術社会論)
徳永哲也(長野大学教授・哲学)
戸田 清(長崎大学教授・環境社会学)
直江清隆(東北大学大学院准教授・哲学)
永澤 哲(京都文教大学准教授・宗教学)
中島隆博(東京大学大学院准教授・中国哲学)
林 真理(工学院大学教授・科学史科学論)
原 塑(東北大学大学院准教授・科学哲学)
廣野喜幸(東京大学大学院准教授・科学史科学論)
細見和之(大阪府立大学教授・ドイツ思想)
森 幸也(山梨学院大学准教授・科学史)
村岡 潔(佛教大学教授・医学概論)
坂野 徹(日本大学准教授・科学史科学論)
森岡正博(大阪府立大学教授・生命倫理学)
吉本秀之(東京外国語大学教授・科学思想史)